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ちっひーとたまっきーと霊犬『どくだみ茶』の日常ほのぼの



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 痛ってえ! という悲鳴を聞いて環は居間を覗き込んだ。ドジがいるから悲鳴なんて日常茶飯事だが、声がいつもより大きい。
「何?」
「どくだみ茶に噛まれました……」
 そう言って千尋が歯型のついた手を見せるが早いか、環は千尋を蹴り倒してその目の前にいる犬を抱き上げた。
「どくだみ茶に何をした?」
「なんで噛まれたオレが蹴られ……ひどいです」
 しくしくと俯く千尋を、環は胡乱な目で見つめる。
 どくだみ茶は環の霊犬だ。柴犬ほどの大きさで、甲斐犬に似た黒い毛並みをしている。
「何したの」
「『お手』ってしただけですよ。テレビで芸ができる犬特集やってたんで、試してみたくなって」
 環が視線を移すと、つけっぱなしのテレビには賑やかな音楽と共に様々な犬が映っていた。
「なるほど」
 どくだみ茶を絨毯の上に立たせて、環はぽんぽんとその頭を撫でる。指先で毛並みをかくようにすると、どくだみ茶がシッポを振った。
「下克上されそうになったんだ。どくだみ茶、可哀想に…」
「げこくじょー?」
「どくだみ茶が千尋の言うことなんか聞くわけないでしょ?」
 頭を撫でながら『お手』をすると、どくだみ茶は嬉しそうに手を乗せてくる。それを見て千尋はショックを受けたように、ぽかんと口を開けた。
「ね?」
「オレんときは噛んだのに……。いつも散歩に連れてってるのに、なんでお手してくれないんですかね」
「散歩? どくだみ茶に連れて行って『もらってる』の間違いじゃない?」
「……へ?」
「ん?」
 笑顔で首を傾げる環の前で、千尋は背中に妙な汗をかく。
「もしかして、オレ、どくだみ茶よりも下……?」
「いつから上だと思ってたの?」
 ガックリと脱力した千尋だったが、すぐに思い直したようにぐっと拳を握った。
「オレ、どくだみ茶よりも環様の役に立てます!!」
「どくだみ茶はお皿を割らずに運べる」
「負けた!!!」
 先程よりも深く脱力して落ち込む千尋の頭を、どくだみ茶が肉球で撫でた。
「あ!」
「次は何」
「オレ裁縫ならできます!!」
 全開笑顔で言い放った千尋を、環は『可哀想な子』と言わんばかりの目で見た。
「そっか、千尋は知らないんだ」
「え?」
「どくだみ茶は本当は裁縫ができるのに、千尋の利点が無くなってしまわないように気を遣って、できないフリをしてくれてるんだよ」
「えええ!?」
 驚く千尋の横で、どくだみ茶も『ええ!?』という顔をしている。
「本当にいい子だから、どくだみ茶は」
「そうだったんですね…。それなのにオレ、お手なんて失礼な真似して……」
 反省し始めた千尋を振り返って、どくだみ茶は『信じた!?』と二重の驚きに目を丸くした。
「ゴメンどくだみ茶! 許して!」
 首に抱きつくようにして謝り始めた千尋に、どくだみ茶は困惑げに首を傾げる。
 どうしようかと主人を見やると笑顔のサムズアップ。もうどうでもよくなって、どくだみ茶は慰めるように千尋の頬を舐めた。

 依然として、神本家のヒエラルキーは千尋が最底辺である。
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